スチュアート・ブランドは人工呼吸器を拒否することにした - WIRED.jp

2020年3月20日、スチュアート・ブランドがツイッターに刺激的な投稿をした。

Here’s something the old folks are quietly asking:

Is it worth going to the ICU?

What’s the post-ICU experience?

Compromised? Traumatized? Dead? Totally recovered and joyous?

When things get intense, people are going to self-triage.They need good information to decide with

— Stewart Brand (@stewartbrand) March 21, 2020

老人たちが密かに問うていることがある。

ICU（集中治療室）に行く価値はあるのか？

ICUのあとに何が待っているんだ？

障害が残る？ トラウマに苛まれる？ 死ぬ？ 全快して喜びに包まれる？

状況が厳しくなれば、みなが自己トリアージをすることになる。決断に役立つ情報が必要だ

ブランドは伝説的な著述家であり、思想家であり、雑誌『Whole Earth Catalog（全地球カタログ）』の創刊者であり、非営利組織ロング・ナウ協会の共同創設者でもある。COVID-19のパンデミックが続くなか、81歳の高齢者でもある彼のツイートは、避けようのない議論の端緒を開いた。問われているのは、「もう治療はいらない」と言うべきときはいつなのか、だ。

スティーヴン・レヴィ

『WIRED』US版創刊時からの寄稿者であり、現在も雑誌とウェブサイトでテクノロジー全般について執筆している。テクノロジー記者としてのキャリアは30年を超える。近著の『In the Plex』（邦訳＝グーグル　ネット覇者の真実〈CCCメディアハウス〉2011）は、グーグルの物語の決定版に位置づけられる。テンプル大学を経て、ペンシルヴェニア州立大学で文学修士号を取得。ニューヨークのオフィスを拠点としている。

人生の終わりを巡るこの問いは、新型コロナウイルスがもたらしたものではない。緊急事態が起こり、健康上の恐ろしい決断を迫られる可能性は、高齢者や重病の患者たちの脳裏に常に潜んでいる。COVID-19はその憂鬱な思索を表舞台に引き出したのだ。原因となるウイルスにはまだ謎が多いが、少なくとも一点については、専門家たちの見解が一致している。高齢者と、基礎疾患［編註：肺や循環器の慢性疾患、糖尿病など］を抱えている人に最も重大な害を及ぼすということだ。また、急性呼吸窮迫症候群（ARDS）という合併症は特に悪質で、突然発症するうえに、ICUでの治療が必要な水準まで急速に悪化する。

ブランドはそれに対し、ICUに入らない選択の必要性を問おうとしていた。そこでTwitterの画面を開いたわけだ。彼はツイートを続け、「わたしがいちばん探しているのは、データだ。証言。統計。動画。とにかく情報だ……それが、適切な判断の材料となる」と訴えた。

妻のライアン・フェランもブランドの探究を支えた。フェランには保健・医療分野で仕事をした経歴がある（彼女が立ち上げた消費者向け医療ウェブサイトは1999年にWebMDに買収された。また、その後に設立した消費者向け遺伝子解析サービス企業DNAダイレクトは、2011年にメデコ・ヘルス・ソリューションズに買収されている）。

ツイートには、科学研究を引用したものを含め大量の返信が寄せられた。するとブランドは、1日もしないうちにフォロワーたちに新たな呼びかけをした。COVID-19が最も重篤化した際の治療のかなめとして頻繁に言及される医療機器、つまり人工呼吸器に関し、情報提供を求めたのだ。人工呼吸器は複雑かつ侵襲的な装置で、ARDSを起こした患者の命綱になりうる。だが、そのコストはどれくらいなのだろうか。どんな代償があるのだろうか。

治療を自ら終了する選択の是非

いまのところブランドは健康で、活発に過ごしている。友人であるわたしを含め、本人を直接知る者には、その頭脳が相変わらず明晰であることがよくわかる。彼は現在、ロング・ナウ協会のセミナーを主催したり、「あらゆるもののメンテナンス」をテーマに本を書いたり、リョコウバトなどの絶滅動物の再生を支援したりと、いくつものプロジェクトの成功を目指している。さらに、彼を主題にした新しいドキュメンタリー番組も制作されている。

スチュアート・ブランドを失うようなことがあれば、膨大な損失だ。ブランドが新型コロナウイルスに感染したと考える理由はなかったが、いつか自分が感染するかもしれないことも、実際に感染した場合、よく考える時間のないまま決断を下すことになりかねないことも、彼にはわかっていた。そのため、実際に人工呼吸器につながれる可能性が薄い段階で、いつも通りの明晰な思考力によって、自ら治療を終了する選択の是非を考え始めたのだ。

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July 14, 2020 at 05:00AM
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