アパレルブランドへの繊維の供給やOEM(相手先ブランドの生産)などBtoB事業を主軸としてきた老舗の繊維メーカーが、自社ブランドを立ち上げる動きが活発だ。アパレル消費の低迷が続くファッション市場で、ブランドは飽和状態。さらに今年は新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかけて、アパレルメーカーはブランドの整理やリストラを余儀なくされている。この苦境の中で、自社ブランドを立ち上げた繊維メーカーは、どのような理由で新事業に挑んでいるのか。その胸の内を聞いた。(この記事はWWDジャパン2020年10月5日号からの抜粋です)
これまでアパレルメーカーの黒子的な存在だった繊維メーカーが、自社ブランド立ち上げに動いた背景には、不調が続くアパレル消費、取引先からのOEM事業の価格引き下げ要求、中国をはじめとする海外生産との価格競争に加え、近年サステナビリティの意識の高まりから発注量が減少するなどビジネス環境の縮小によるところが大きい。4月以降、石川県金沢市のカジナイロン、新潟県見附市の第一ニットマーケティング、愛知県一宮市のソトーなど代表的な繊維産地の老舗が自社ブランドを相次いでスタートさせた。
1923年創業のソトーは、今年7月にメンズブランド「モーヴ(MOVB)」をeコマースで発売した。その背景を松下靖開発部長は、「染色整理加工やテキスタイル事業などBtoB事業を主とする当社は、消費者ニーズをつかんだ高品質な商品を提供することが成長戦略に必要であり、事業領域を拡大することで価値の創造を図っていけると考えた」と説明する。2014年のトラベルギアブランド「トゥーアンドフロー(TO&FRO)」、15年のメンズブランド「ティモーネ(TIMONE)」に続いて今年4月に「ケースリービー(K-3B)」をスタートしたカジグループのカジナイロンの村松絵梨子「ケースリービー」ブランドマネジャーは「海外のビッグメゾンとも取引が多い北陸の合繊メーカーのモノ作りのレベルの高さを消費者に伝えたかった。シーズンレスのデザインで自由なセットアップが楽しめる『ケースリービー』は今の時代性に合っている」と話す。各社に共通しているのは、海外でも評価が高い伝統の技術力を発揮したクオリティーだ。デザインはベーシックで長く愛用できる商品を目指す。
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